第61回「シールド・トンネル工法施工技術講習会」

厳しい施工環境下のシールド
–その技術対応と施工管理–

※本講習会は、土木学会「継続教育(CPD)プログラム」認定(CPD単位6.9)にて、2017年4月開催されました。

高透水性帯水砂礫層における泥土圧シールドの施工
–下川原雨水貯留管築造工事–

本工事は、静岡市下川原地区の浸水被害を軽減するため、国道150号の直下7〜11mに内径φ4m、延長約1,100mの雨水貯留管を泥土圧シールド工法により築造するものである。安倍川の形成した扇状地の砂礫層は、細粒分の含有率が低く、地下水が豊富なため、当初選定した掘進用添加材が土質条件に適合せず、掘進初期から推力・カッタートルクの上昇、スクリュー閉塞等の問題が生じた。添加材の種類、配合、注入率および注入箇所について試行錯誤を重ねた結果、無事にシールド掘進を完了することができた。
本稿では、土質条件と添加材との不適合から生じたシールド掘進時の問題点と対策、土圧計のトラブル対応等の施工実績につ いて報告する。

三井住友建設(株) 土木本部 機電部 課長  舘川 俊之

供用中の鉄道トンネルに対する恒久対策
–みなとみらい線高島トンネル補強工事–

高島トンネルは,みなとみらい線の横浜駅から新高島駅間に位置するシールドトンネルである。このトンネルの一部区間にお いてトンネルの変形が確認されたことを受け、トンネル検討委員会が設立されてトンネルの現在の安全性の検討および対策工の 選定がおこなわれた。その結果、現状ではトンネルは一定の安全度を有するが、上部の土地利用計画による上載荷重の増加と首 都直下型地震の可能性を考慮すると早急な対策工事が必要とされた。
選定された対策工は、変形が確認された110m区間に対する高圧噴射撹拌工法による外部補強工と、110m区間のうち、特に変形の大きい30m区間に対する二次覆工による内部補強工である。内部補強および外部補強いずれについても供用中の鉄道トンネルに対する補強工であり、列車運行を確保することが、施工方法選定の条件とされた。 本稿では,高圧噴射撹拌工法による外部補強工と、一部変形の大きい30m区間に対して実施した鋼製段差継手セグメントによる内部補強工の施工実績について報告する。

清水建設(株) 土木東京支店 土木第一部 羽田空港際内トンネル 所長  神保 誠二

泥水シールドによる長距離・高速施工

本工事は、仙台市荒井地区浸水対策工事のうち、既存の霞目幹線開水路の直下に内径3.0m、延長約3,900mの雨水排水管を 構築するものである。掘削には泥水式シールド工法を採用し、長距離、急曲線、崩壊性の高い沖積砂質土の条件のもと最大 月進約600m、平均月進約350mを達成することができた。 本報文では、長距離・高速施工を中心に実施した対策と掘進実績について報告するものである。

(株)安藤・間 東北支店 霞目シールド作業所 現場代理人  伊藤 大輔

厳しい施工条件を克服してきたシールド工法、
“まだまだ大自然は厳しかった”

今では常識となって確立されているシールド工法の基本的な施工技術も、当時では厳しい施工条件に立ち向かい克服して獲得 したものであり、周辺技術を含めて都市トンネル技術は成熟期に達してさらに高度な分野を開拓している。昭和30年代以降、インフラ設備の一環として先ず都市部に下水道管渠を普及させるためにあちらこちらで道路を開削していた。道路を開削しなくてもよいシールド工法がこれに代わるように登場した。多くは補助工を用いなければならなかった開放型シールドは、まだ技術的には多くの課題を抱えていた。
これに続き、現在では定着し成熟した密閉型シールド工法が社会の多様なニーズに対応しながら急速に普及してきた。その当時は厳しかった施工条件の難題をどのように克服してきたか、筆者も関わった日本独自に開発された土圧式(泥土圧)シールドを通して振り返ってみた。さらに本稿の本論として、台湾中部の台中懸において大自然の猛威を痛感した、国家事業の一環であったIT関連の工業団地を造成するための下水道工事の事例を紹介する。

大豊建設(株) 土木本部 エンジニアリング部 技術担当部長  武内 秀行

複合地盤での長距離泥水シールドの計画と施工実績

京都府では、桂川右岸流域の雨水対策事業として河川が雨水で溢れる前に雨水を貯留するために、地下トンネル【いろは呑龍 トンネル】の整備を平成7年度よりおこなっている。事業総延長は、約9.2kmである。今回の工事は、既設の北幹線管渠に続き、南幹線管渠として工事延長4,057mの長距離かつ掘削地盤が砂礫、粘性土、岩盤の複合地盤を泥水式シールド工法にて築造するものである。
本報告はこれらの難条件下での施工における、工期短縮とコストダウンを図る計画と現時点での施工実績について報告するものである。

西松建設(株) 西日本支社 洛西シールド出張所 所長 技術士(建設部門)  大石 浩
西松建設(株) 西日本支社 洛西シールド出張所 副所長  田口 雅章

都市部において硬質な複合地盤を長距離掘削した
泥土圧シールドの施工実積

本工事は、名古屋市東部の丘陵地をシールド外径φ5.96mの泥土圧シールドにより掘削する共同溝工事である。掘削土層は、硬質層より更に過密圧された第三紀鮮新世である東海層群であり、N値50を超える固結シルトと石英分を多く含有する砂層からなる 複合地盤である。掘削延長は約3.6km(トンネル延長6.6km)と非常に長く、カッタービットの摩耗が懸念された。また、路線中には、シールドで施工された地下鉄営業線直下を離隔約6.0m(1D)で交差する近接施工や2箇所の中間立坑を含む、3回にわたる発 進・到達を行った。特に、近接施工区間は、土層が急激に変化することが当初設計にて提示されており、構成地層を正確に把握 し掘削する必要があった。
本稿では、これらの施工条件に対し、効率よく掘削するための施工方法と近接施工結果について報告する。

(株)大林組 名古屋支店 鳴海共同溝工事事務所 所長  服部 鋭啓

泥土圧シールドから機械掘り換装による障害物除去掘進と
発進基地の作業環境改善(多機能防音ハウス)

シールド掘進途中に残置されている障害物の除去は補助工法等と合わせて機械切削可能なものもあるが手堀り除去をせざる得ないものもある。工事では35mの区間にアースアンカー(PC鋼より線11.1mm×7)が15本残置されていた。
本報告では泥土圧シールド(コンパクトシールド工法・φ2880)からカッター駆動機構を残し機械掘りに換装し、外周カッタビット接触点応力集中により引張破断とした。土砂は隔壁の土砂排出口で破断PC鋼線を取り除き連続ポンプ圧送とした計画と実績をついて述べる。また、発進基地の作業環境改善(多機能防音ハウス)を行ったハウス内の換気(立体メッシュ換気システム、防災ハウス)等を紹介する。

戸田建設(株) 首都圏土木支店 第二戸山幹線シールド作業所 所 長  梅原  勉
戸田建設(株) 首都圏土木支店 第二戸山幹線シールド作業所 監理技術者  田中 宏典